2017年 08月 07日
コ・ワ・テ・ブを作る人達〜ブラシ職人編〜希少な”つぼ切り”に惚れた! |
「お客様の為の、靴磨きをする方の為の靴ブラシへの想い。」
15年前、金沢のデパートの「大江戸展」で、あるブラシ屋のスエードブラシが
目に入りました。それは細くて柔らかい金属で出来ていて、スエードの毛並みを
痛めない様に思えて、手に取ってジッと見ていました。「銅線で出来ているんで
すよ。」いかにも営業慣れしている男性が私に声を掛けました。私はそれを購入
して自分が靴屋だと名乗ると「何でも誹えで作りますよ!」とその人は言いまし
た。それが「江戸屋」との出逢いでした。
それから私は東京ミーティングの時に日本橋を訪ねて、私の特注で今迄に無かっ
た4cmの馬毛のブラシ、豚毛のブラシは2.5cmの長さで、江戸屋オリジナルが
5列であったのを、少し前に”レオン”か”サライ”の編集者(どちらかはっきりと
覚えてなくてゴメンなさい。)と服飾評論家の故・落合正勝氏が来られて6列で
提案したのをそのまま同じに、そして「これ何かにならない?」と出された”入
れ歯洗いブラシ”を「コバブラシにいいね!」とコバブラシ用にスエードブラシ
と合わせて注文しました。(今も残る納品書には「入れ歯ブラシ」と記してあり
ます。笑)
その後「他から注文で作ったブラシがあるんだけど何かに使えない?1個送るか
ら。」と届いたブラシが山羊毛のブラシでした。私はそれをコードバンの艶出し、
仕上げブラシに良い!と発注し、江戸屋もそのコンセプトで売り出しました。し
かしこのブラシの毛は抜け易く、私が指摘すると、「大丈夫、抜け易い毛は除く
から。」と言われましたが最後まで改善されませんでした。私はこれをどうにも
出来ない事にお客様にずっと心苦しく思っていました。
その後、最低ロット1種50個をこなしながら発注と販売、そしてアバンティと
グロスターロードに卸してきましたが2年前の5月のオーダーを「生産改善」を
理由に保留され、連絡は途絶えました。
今年の始め頃にNHKの番組で、江戸屋が出ていて「このブラシは靴の仕上げ用で
御座います。」と、山羊毛ブラシを手に言っているのを見た時に自然に一粒の涙
が零れた私です。その日から私はようやく待つ事を止めて、ブラシメーカーを探
す様になりました。
「街歩きに偶然出会ったブラシ屋さん」
今年の3月、私はミーティングを終えた翌日の水曜日に友人と上野公園からカッ
パ橋通りに向かって歩いていました。そして仏具店の並ぶ通りを歩きながら、ふ
と「靴ブラシ」という文字が目に入ってきました。その店はガラス張りで入り口
の両側にショーケースがあり、靴ブラシや服ブラシ、店内には刷毛等も並んでい
て、思わず私は自動ドアから中に入って行きました。
「いらっしゃいませ。」製作所の小上がりから白髪で品のあるおばあちゃんが私
に声をかけました。真中のショーケースの前にスーツ着の男性2人が立っていて
娘さんらしい女性が対応していました。ショーケースの上に靴ブラシが2種類置
いてあり、男性の足元にあるトートバッグから巻いてある革らしい物が見えまし
た。そしてもう1人の男性が電話をしだしたので、私はおばあちゃんに礼を言っ
て店を出ました。
私は友人と少し離れた所から店を見張りました。2人の男性が帰ってからじっく
りとブラシを見てみたいと思いました。「もしかしてあの2人は業者で先を越さ
れたのかもしれない。」
常日頃からのブラシへの想いが、飛躍した想像をしてしまう私にさせていました。
それから2人が出たのを確認して、1本裏道を回って、彼らの歩く反対の方向か
ら私達は店に入りました。
「宮川刷毛ブラシ製作所」は手作り、手植毛のブラシを製作販売している所でし
た。江戸伝統工芸師の先代が3年前に他界され、今は奥さんと娘さんで営んでい
るとの事でした。そこにあった靴ブラシは手植毛されて、毛が”ぎゅうっ!”と詰
まっていて、3cmの豚毛のスプリングの具合が素晴らしく、コバブラシが兼用出
来ると思いました。「山羊毛のブラシはありますか?」私が尋ねると、2人は顔
を見合わせて、最後の毛で昨年1個のオーダー製作をした事と、靴ブラシには毛
が絡んでしまって向かない事を私に話しました。そして私は私の仕事についてと、
15年前に江戸屋と出逢ってからの今までの経歴を話して伝えました。宮川さん
は何軒かの仕事をしていた外注職人がいなくなった事から、私達への江戸屋から
の供給が出来なくなったのではないかと話し、ブラシの毛の抜けるのはドリル穴
が原因で普通は穴底が平らになって毛束が(特に細い毛)フィットしないとも言
いました。そしてブラシを私にみせながら、「私達は”つぼ切り”で穴を開けて、
穴底をすぼませて毛束をフィットさせている。」と説明されました。それから馬
毛ブラシをお母さんが見せて下さり、私はその柔らかさの具合に「江戸屋の馬毛
と山羊毛の間くらいだ!」と感動すると同時に山羊の必要が無くなった事を実感
しました。宮川さんは手作りで、卸しをしていない事を私に伝えましたが、私は4
cmの馬毛と3cmの豚毛を特注して、時間がある時に作って頂きたいとお願いし
て、手植えの銅線のスエードブラシを店用に購入して店を出ました。翌月に再来
店する事を約束して。(ちなみにあの2人の男性は普通に靴ブラシを買っていっ
たそうです、、、。笑)
コ・ワ・テ・ブを作る人達〜ブラシ職人編〜は思わず長編になってしまい、次回
の「コ・ワ・テ・ブへの道」に続く事になりました。
「ダイキ、ありがとう!お疲れ様です!明日は台風だ!明日も宜しく!」
製作所。
今までの中の一番良い物を大切に使っているそうだ。
2つに切るのを頼まれた。ふたを外し、針金を切って毛を抜いた面を切ってある。
(大変な手間だ!)
誰もが経験している事ですね。まだまだ頑張ります!
by kokon-y
| 2017-08-07 20:08
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